今回のラベルデザインは私、阿部たけしが担当しました。どんな色になるかで名前を決める「ときいろシリーズ」は(今回のワイナリーさんでは300kg無いと仕込めない)作れなかったので、そちらは奥さんのデザインに任せるとして、さてどんなデザインにしようかと。
ネーミングの「星糞」由来ですが、長和町は縄文時代に矢じりや宝飾品として使われていた「黒燿石(こくようせき)」の一大産地です。町内の星糞峠(ほしくそとうげ)には今もびっくりするくらいの量の黒曜石があちらこちらに落ちてます。そんな大地で育ったブドウで、時の流れを感じられるような赤ワインを造れたら最高です。私たちが大好きな長和町をもっと楽しく元気にしたい、そんな強い気持ちを込めて星糞と名付けました。
余談ですが・・・。星くず峠なら可愛らしかったのですが、星糞、なんですよね。私が町長か町議会議員になったら峠の名前を変える議案を出したいところですが、でも星糞だから良いんですよね。愛してあげなきゃです。地名ってそういうものだと理解してます。
絵は「黒曜石、獣王国、縄文時代から」というキーワードで描きました。合計24時間、期間は2か月くらいかかったと思います。下手ウマな絵しか描けませんが、私らしさを出すには私が描くのが一番ですよね。結果、信州そらいろ農園らしさがじん
わり出たのではないかなと思います。
◆栽培のこだわりについて
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畑のメルローのブドウの様子 |
2.密植栽培について ~樹間80cmの密植栽培方法「ナンジャソーレ」~
1.生物多様性について ~いろいろ食べられる畑「ハラミタス」を目指して~
畑ではブドウと一緒に各種ハーブ、キウイフルーツ、イチジク、食用ブドウ、ネギ、トマト、柿、ヘーゼルナッツ、ペカンナッツ、くるみなどなどいろいろなものを定植し、栽培してます。生物多様性を最大限に高めた畑になってくれたら害虫や益虫、微生物、それにミツバチなども集まる畑になってくれると思うのです。
1種類の作物だけを育てるより、例えば10種類の作物を一緒に栽培したほうが、農薬も少なくて済むのではないかと思うのです。実際、キャベツだけの無農薬栽培は難しいですが、他のいろんな野菜と一緒に育てると無農薬でも育てられますから。  |
畑の多様性のために作った苗たち |
それに町の子供たちが遊びに来てくれた時にも、ブドウ以外でもいろんな時期にいろいろ収穫出来たほうが喜んでもらえそうです。ブドウ畑の果樹はまだ柿、クルミくらいしか収穫に至ってませんし、定植後すぐにイノシシに引っこ抜かれまくりますが、来年もたくさん植えて腹を満たせる畑「ハラミタス」を実現させたいと思います。
2.密植栽培について ~樹間80cmの密植栽培方法「ナンジャソーレ」~
ワインブドウは日本では、多くは垣根式で密植栽培されてますが、多くの方が樹間100cm*通路220㎝(軽トラがぎりぎり入れる位)位で密植栽培を行ってます。それと比較すると信州そらいろ農園のブドウ畑は樹間80cm*通路180㎝と更に密植栽培を試してます。
これだと樹間は1.25倍、通路は1.22倍となり必要な苗の本数は1.52倍になると思います。本数が増えれば剪定もワラまきもなどの管理もそれだけ手間がかかります。それに株間が80㎝だと隣の枝と干渉しやすく、自動的に収量の制限がかかってしまいます。
でももし私のイメージ通りに健康に育ってくれさえすれば。そのある意味自然な収量制限から凝縮感が生まれ、それでいて1本の樹あたりの収量は減るので樹の負担は下がります。木が枯れてしまったところは樹間160cmのところもありますが、それはそれで個性。個性ある木から育ったブドウから造られたワインがどんな個性を出せるか、とてもワクワクしてます。
→2024年11月追記
密植栽培の良さと悪さが分かってきました。日当たりの良くない畑では密植にすることにより(特に通路側の密植)、太陽が果実に当たらないことがあり、着色不良を起こす原因ではないかと思ってます。獣害の少ない畑なら収穫をいくらでも待てるので良いですが、長和町のような獣王国ではそこで立ち上がれないくらいの収穫量のダメージを受けることになります。
3.苗について1 ~下手くそ自作苗でワイン作り「ソコカラーネ」~
プロが造った苗は安定感がありますし、間違いがないのでしょう。しかし持続可能の点から考えると。例えばお米のように急に高騰が上がったら?苗不足になったら?自分で作れないと持続可能とはいえません。
将来的にもしかしたら遺伝子組み換えやF1技術が進歩して種を取る必要などなくなる時代が来るかもしれません。でも私は自分で種を取り種をまくことが大切だと信じてます。古い人間なのでしょう。農家にとって種を取って蒔くことは生命線です。
とそもそも私は富士山も0合目から上る人間なので、野菜でも果樹でも1から育てたくなるんですね。苗から作ればより栽培者の個性がワインに出やすいとも思います。数千本を植え付けるワインブドウ栽培では自前で苗を作ってる方はたくさんいらっしゃいますが、うちもそのひとつということです。
2024年11月追記
挿し木した台木が育ってきたので、いよいよ植えてある台木への接ぎ木を試していきたいと思います。ワクワクしますね!来年4月くらいからやってみたいです。
4.苗について2 自分の根っこで育ったブドウに~「アブラネカタブラ」~
現在売られてる野菜や果樹は大半が「接ぎ木苗(つぎきなえ)」の状態で売られてます。接ぎ木苗は根っこの部分が台木、それより上が育てたい品種になってる苗です。接ぎ木苗は根を張りやすいので、病気に強く、樹勢も強く、結果として糖度も上がりやすいと思います。
私は自給自足の生活の中、種から育てられる固定種や自家採取の種での栽培を大切にしてます。種から育てると「自根苗(じこんなえ)」になるのですが、皆さんは昔のキュウリはおいしかったという話を聞いたことがありませんか?この味の違いが接ぎ木のせいなのか品種改良のおかげなのか断定はできませんが、プロのキュウリ農家の方も「どちらがおいしいかは決められないが、味は違う」と言ってました。
試しに買ってきた接ぎ木苗と種から育てたトマト(桃太郎)を隣に植えて食べ比べをしました。結果は…私には接ぎ木苗の野菜は甘かった、しかし自根野菜のほうが甘さ以外の味わいは深かったという印象でした。このような体験と想いから、ワインブドウ栽培でも自根苗を中心に育ててます。
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カットして水につけてる苗の様子 |
しかしいつかフランスの様に日本でもブドウネアブラムシの問題が出てくるはずなので、その対策と味わいの広がりを狙って接ぎ木苗も同時に育てています。ちなみに定植して6年経過する私の畑に入った人はまだ10人も居ません。その理由の一つが「ブドウネアブラムシを畑に入れたくないから」です。このブドウネアブラムシの問題も多様性の畑ならば単一の畑より進行が遅いのではないかという狙いもありますが長くなるので別の場所で。
2024年11月追記
おおむね、挿し木は根が台木のように伸びないので、初期の清澄が弱いです。日当たりの良い土地なら問題にならないかもしれませんが、日射量の少ないエリアでの栽培ですと、冬を2年超えられない株もかなりあります。3年後に実をつけるまで行けるのは、毎年補植をし続けて100本中50本という印象です。あまり経済的じゃありませんね。
あと、挿し木が成功するかどうかは品種による差も大きくあるようです。シャルドネは挿し木で育ててもうまくいかないことが多く、メルローはとても強い印象です。(それでも割合は100本中50本ですが)。人と違うことをするのは大変ですね、はい。
5.土づくりについて ~安心安全で持続可能な土「ツチクーヒト・ス-ゲ」~
自家製野菜や雑草を毎日与え、抗生物質やホルモン剤を与えてない自然養鶏を営んでます。そこから造られる自家製鶏糞堆肥、卵殻などをブドウ畑の表土に戻してます。それを耕してすき込むすことはせずに地表に置くだけ。おそらくブドウには届かず雑草の栄養分になるだけなのでしょうが、草刈り後に地上と地下の分解者に食べられたりすることで微生物や小さな虫たちの多様性が生まれてくれたら考えます。
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にわとりたちの写真。 |
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雑草クズも有機質も炭素分も石灰分もたっぷりの鶏糞堆肥。 |
どこかの牧場やホームセンターで購入出来る鶏糞にはほぼ100%、抗生物質やホルモン剤が入っていると聞きますが、自分で原料から作れば安心というわけです。それに味わいも自作堆肥のほうがより個性が出やすいですしね。ブドウ栽培も養鶏も、循環させて持続可能な農業を目指してます。
2024年11月追記
養鶏の話になってしまいますが、今年、くず米が1kg130円という値段に跳ね上がりました。クズ米ですよ、食べられない家畜用としても貧弱な、あの緑のお米がです。。これまでは30円、45円と値上がって、去年は90円、そして今年は130円だと。足元を見すぎです。コスト面から、いよいよ養鶏を続けることも難しくなってきました。今年次第では、ですね。
6.防除について ~農薬はなるべく自然派+自家製液肥 「ジシンナッシング」を実践~
農薬は有機認証のものを主に、そこに自家製液肥を混ぜて使用してます。気分次第で乳酸菌液、納豆菌も混ぜてますが効果があるのかないのかさっぱりです。もちろん、除草剤や抑草剤等は使ったことがありません。
まき方もえんやこらとホースを引っ張って手散布でまいてます。500kgの水のタンクを積んだ350㎏のスピードスプレイヤーなどで通路を走れば土をガッチガチに踏み固めてしまうからです。
…なんてかっこいいことを書いてますが、実際にこの広さをホース引っ張って行えば疲れるなんてもんじゃありません。やるたびに虫の息になりますし、体を痛めてます。いつか宝くじが当たるかワインが売れてきたら自動巻きとり機の導入も検討したいです。…難しいかなぁ。
7.他にも栽培関連のチャレンジいろいろやってます
楽しい感じの文章で書いてきましたが、他にも月の満ち欠け、苗の植え方、支柱の立て方、ワイヤーがヒモ、などチャレンジしていることは多いです。そのすべてを書かないのは成功、失敗と分かったものならともかく、結果が出てないものをウリにするのもどうだろうと思うわけです。
今後もいろいろ植えたり、生き物を放してたり、やってみたい構想があります。持続可能で楽しいワイン作りを続けていけたらなんと幸せなことでしょう。そしていつか私が病で倒れて「チチキトク・スグカエレ」の電報を見た息子たちが、「…親父の農園、継いでやってももいいぜ」と言ってくれるような農園を作るべく、日々前進していけたらと思います。
そのようなわけで身の丈にあった信州そらいろ農園のワインをこれからも応援ください。
(2022年8月1日信州そらいろ農園 阿部たけし)
◆醸造のこだわりについて
今年は長野県小諸市のテールドシエルさんで醸造していただきました。 ブドウに着いた野生酵母のみで発酵、無濾過、補糖補酸なし、最初から最後まで亜硫酸無添加です。
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風穴で熟成中の信州そらいろ農園ワイン |
瓶詰後、数か月、長和町風穴倉庫(ながわまちふうけつそうこ)にて瓶熟成させました。こちらの風穴は年間通して4度~8度とのことです。私はワインは生き物だと思っているので、電気の空調で管理された冷蔵庫ではなく、長和町の大自然が室温を保ってくれるこの風穴はワインの熟成にベストだと胸を張って言いたいです。
さて、今回の2021年の微発泡ワインなのですが、この泡も炭酸ガスを添加したものではなく発酵で瓶内に生まれた自然な泡です。
じんわりしたうまみが特徴ですがスルスルと飲めちゃう割にはアルコール数は高いので、からだに染みる感じで酔えます。
2021年のブドウは病果もなく、獣害も少なく、うまくいっていたのですが、収穫を引っ張っていた最後の最後でスズメバチの大群に食われてしまいました。そんなブドウを亜硫酸無添加でここまでにしてくれたのはさすがとしか言いようがありません。
それもそのはず、テールドシエルの醸造責任者の桒原さんはあの栃木県のココファームで自然派のブルースガットラブさんと一緒に醸造をしていて独立した、今話題の醸造家のひとりなのです。この方が北海道ではなく、ここ長野県を選んでくれたことがうれしいです。
私もいつか醸造までやりたいです。